ホ−ム>>NEW WAVE POLITICSを読み取る更新日 2017/5/7


                         =NEW WAVE POLITICSを読み取る=

 2016年は私のネット生活20周年だった。

その年の後半になって、ネットの世界では、20年ぶりの「革命」が進行しているのに気が付いた。ビットコインの基礎になっている「ブロックチェーン」だ。 
暗号化などの技術的なことは難しすぎて、もう理解する気も出てこないが、インターネットがやろうとしていた中央集権型社会への挑戦が、さらに一歩進められようとしていることは理解できた。
金の支払い方、決済が大きく変わっていくだけではなく、働き方や社会の在り方まで変え得る可能性を持った、シェアリング・エコノミーの立ち上がりと結びつけて理解する必要があると感じた。

そして、今年、2017年はロシア革命100周年。遠くまで来てしまった・・・が実感だが、昨年は、英国のEU離脱決定、トランプ大統領誕生と重大事件が発生し、政治の進む方向について見直しが迫られている。

さらに、70歳まであと2年余り。もうそろそろ「まとめ」を準備する時に入っている。このウェブサイトも、わざとではないのだが、「本音」はわからないような内容になっているので、少しは「本音」に近いものを出していきたい(と、思っている)。
というわけで、このページ「NEW WAVE POLITICSを読み取る」を始めたい。
「NEW WAVE POLITICSを読み取る」は、新しい政治の動き、新しい左翼の主張で、英語で出されている物(基本は日本語にまだ翻訳されていないもの)を紹介する。さらに私の感想や意見も加えて、私の「まとめ」を作り出す作業に活かしていきたい。

  バラファキス(ギリシヤ)/

本タイトル著者出版社発行年
弱者はただ苦しむしかないのか?(仮訳題)バラファキスNation Books 2016年

CDの写真CDの写真

<紹介・選んだ理由>
バラファキスはギリシヤ急進左派連合政府の前財務相。2015年7月、EUとの交渉の最終段階で、ツィプラス首相と決裂して辞任。
この本は辞任後に出した本。財務相の時は、「革ジャンパーとノーネクタイ」、最強硬の「異端派」というマスコミ報道しか知らなくて、辞任と聞いて、詳しいことはわからないが、「あーやはりそうか」ぐらいしか感想がなかった。
その人が本を出したと知って、飛びついた。英国、米国で教えてきた経済学者だという経歴も全然知らなかった。
その彼が何を主張しているか、ともかく興味があった。Wikipedia で紹介されているように、トロイの木馬としてギリシア政府に送り込まれた「市場原理主義者」 だったのだろうか?

<本の成り立ち>
「欧州、緊縮と地球安定への脅威」との副題を持つ、この本は成り立ちの経過が少し変わっていて、注意を要する。
この本は、バラファキスが財務相になる前、テキサス大で教えていた時期に構想され、すでに、第6章までが書かれていた。そして、財務相辞任後、2015年7月から書き直して、9月に完成している。
そして、財務相としてのEU交渉のことは別個の本で明らかにすると言いながら、「書き直し」は、第7,8章を加えるだけでなく、全般にわたって、交渉の事実・経験に触れている。これが、この本の「射程」を不明確にさせている。
つまり、この本は第二次大戦後のギリシアを中心にヨーロッパの動きを時期を追って、かなり詳しく説明し、論じているのだが、箇所箇所に財務相時のEUとの交渉のことが触れられていて、読みにくくなっている。 

<本の内容>
*この本は、ギリシヤを「鉱夫が炭鉱に連れ込んだカナリア」に見立てて、「欧州危機を米国による世界資本主義支配・規制の歴史的文脈でとらえ」(ペーパーバック版p7)ようとするものである。
全体として、EU時代に限定はせず、第二次大戦後の欧州資本主義の動向をアメリカとの関係で詳しく、分析している。具体的には、ブレトンウッズ体制とその変容、1971年変動通貨制導入の中での欧州統合の動きを、独・仏の拮抗を通して、追っている。

<印象>
*「ギリシヤ危機」についてのバラファキスの主張が一番の関心だと思うが、彼の見解は、次作「部屋の中の大人たち」(仮題)が出るので、それを読んでからにしたい。(危機の経済的原因も含めて)

*ただ、バラファキスは、ギリシヤのユーロ離脱に備えて、自国通貨への復帰を準備していた、と報道されていた気がするが(確認してはいない)、この本を読む限りは、考えにくい。彼は極めて現実的な対案を出していたようだ。 代替策はある(TATIANA)と、既存機構の再編、ヨーロッパ的分散化によるリサイクル政治メカニズム創出を提案して、既存組織のままでも対応できることを強調している。「1.各国の民主主義の尊重 2.各国の尊厳の尊重 3.各国が破産と不況に追いやられない 」新たな三原理に基づく、「ユーロ圏危機を解決する控えめの提案」を2013年7月に発表しているが、これも、まだ評価は控えたい。
*この本の一番印象に残る記述は、第六章の統一通貨ユーロ採用後のドイツ銀行の具体的な営業の仕方の変化である。ユーロ導入後(1999年以降)のドイツ銀行が周辺南欧国にともかく貸し付けまくって、ギリシヤは「サブプライム市場」になった様が、ドイツの一銀行員の話を紹介する形で、克明に描いている。ギリシヤ危機はリーマンショックと同じ事態だが、ギリシヤでは貸し付けた側を救済する国家(リーマンの場合は米国家)が存在しなかった、 というドイツ批判となる。
*ギリシア危機は、イソップ寓話の「アリとキリギリス」の話で見てしまいがちなのだが、新自由主義との対決という面から見れば、バラファキスの主張には耳を傾けざるを得ない。
「赤字恐怖症、ねずみ講緊縮」に対するバラファキスの憤りは大きい。彼は自分の生い立ちから、本を始めている。マルキストだった父と、パルチザンに誘拐され反共産主義者となった母 に育てられ、「矛盾の中で生き、呼吸してき」て「可能な限り(対立の中で)共通点を見出そう」としてきたが、ギリシア人の生活・社会崩壊を顧みようとはしない、ドイツの頑な態度に直面して、自らの取るべきスタンスを決めざるを得なかったことは明らかなようだ。(政治に懲りて、単純に学者に戻ったのでないことは、辞任後の彼の動きからわかる)


<辞任後のバラファキス>
*2015年7月の辞任後、英国のEU離脱をめぐる話に参加する。BREXITにどういう立場を取るか注目されたが、立場は、残留。「EU内部からの改革」だった。
*2016年2月、EUの民主化を掲げて、DiEM25を設立。現在12人いる調整委員(Coordinating Collective)には、バラファキスの他、ノーム・チョムスキー、音楽家のブライアン・イーノが参加している。 →サイト(この組織は、「欧州版ニューディール」を主張しているが、また、紹介したい。)
*EUとの交渉を著す本が出る。「部屋の中の大人たち・・欧州支配体制との私の闘い」(ペンギン)。アマゾンは今年5月にペーパーバック版が出るとしている。

<印象(追加)>
*西洋文明はギリシアで始まっただけではなく、米ソの冷戦開始はギリシアだった、とするバラファキスの訴えを読んでいて、思い出さざるを得なかったのは、映画監督のアンゲロプーロスだ。2012年に亡くなったアンゲロプーロスの映画は「シテール島への旅立ち」「こうのとりたちずさんで」 など、生きて、思索するギリシア人の姿を執拗に追ってきた。アンゲロプーロスが描いた人々・社会と日本のマスコミがイメージさせてきたギリシア社会のあまりの違いに、この本を読んでいて、気が付かざるを得なかった。
*EUばかりか、期待をかけた指導者ツィプラスにも、突き放されたギリシア人の苦悩をわかろうとすることがまず必要だと感じた。    
  


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更新日2017/5/7