ホ−ム>>目が離せない女性たち更新日 2017/3/12


                         =目が離せない女性たち=

 ネットと出会ったのが40代半ば、このサイトを始めたのが50の時。気がついたら、もう70歳目前。
 残された10年だかわからないが、その年月を元気づけてくれると期待している人を紹介したい。
 これまで学んできた人、刺激を受けてきた人は、やはり、男性が多かった。
 そこで、これから刺激を与え、元気づけてくれるのは、年下の女性とならざるを得ない。

 <選んだ理由><注目すべき主張・作品・業績><最新動向><いちおし>などを紹介していきたい。
 私の選択が的外れとならないこと、そして、この紹介に少しでも意義があることを願っている。

  アルンダティ・ロイ/パトリシヤ・プチボン/ナオミ・クライン/ジョーン・バエズ/ブレディみかこ

名前肩書き生年
アルンダティ・ロイインド作家・活動家1959年

CDの写真

<選んだ理由>
ロイのことを知ったのは本当に偶然だった。
2011年秋に初めてインドに行った。ゴアの隔離されたようなホテルだったので、何もインドのことはわからなかった。それで「罪滅ぼし」ではないが空港でインドに関する本を買った。そのうちの一冊がロイの新作「BROKEN REUBLIC」だった。
これはロイがインドの毛派ゲリラ組織に「潜入」して書いたルポで、鮮やかで生き生きとした写真が印象的な本だ。
聞いたこともない名前だったので、ネットで調べて、どんな人かわかって、以来注目している。

これからの世界をリードすると言われているインド。そのインドに住んで、そこから発言を続けるロイの言動をフォローすれば、インドと世界が進んでいく道が見えてくる、と期待したい。
インドの女性思想家というとスピヴァクの名が浮かぶが(その本は読んだこともないが)、彼女は永くアメリカに住み、高い「象牙の塔」に住んでいる人だから、敬遠してしまう。

<特徴>
作家としてデビューしている。
1997年、イギリスのブッカー賞を「小さきものたちの神」でとって(1989年はイシグロ・カズオの「日の名残り」)、一躍注目された。
その後、インドの核実験に抗議して、小説は書かないと宣言。
「世界最大の民主主義国」で進行している事態を、深部から告発するようになっている。
ブッシュ批判・帝国批判を展開して、アメリカでも注目されているようだが、もともとは建築が専攻で、映画にも出演したり、と懐は深い。
サルトルとも違った、「行動する知識人」を意識している、と感じる。

<著作>
*「帝国を壊すために」 (戦争と正義をめぐるエッセイ) 岩波新書  2003年
*「誇りと抵抗」 (権力政治を葬る道のり)  集英社新書   2004年
*「BROKEN REPUBLIC」   PENGUIN   2011年
*「民主主義のあとに生き残るものは」  岩波書店  2012年

まとまった本はあまり書いていないので、雑誌・新聞での論評・エッセイが中心。だから、ウェブで捜して、追っていくという方法にならざるを得ない。
「ロイの知恵」に関わろうとする「追っかけサイト」(ARUNDHATI ROY GROUPIE)がある。
http://arundhatiroysays.blogspot.jp/

<いちおし>
ロイは3.11に東京にいた。
その体験も記した、最新の「民主主義のあとに生き残るものは」(岩波書店)が、入手しやすく、一番まとまっている。

<新作>
ロイの新作を入手した。「資本主義 ある幽霊の話」HaymarketBooks2014年である。2012年3月発表の表題文を始め7編の論評を収めている。
ロイはインドで進行している資本主義化の批判を一層強めている。その文章は、元小説家だけあって鋭く、読んでいるとイギリスのジョージ・オーウェルの「象を撃つ」が頭に思い浮かんでくる。撃たれる象を英帝国主義に見立てる手法が似ている。
「資本主義 ある幽霊の話」は、ムンバイにインドで一番の金持ちアムバニが建てた27階建ての家アンティラ(Wikipediaではアンティリア)を取り上げている。(下右の写真)
CDの写真CDの写真
アムバニはリライアンス工業の代表で、この個人住宅には600人の使用人が住むと言われている。ロイはこのアンティラから話を始めて、インドで進行する貧富の拡大、その背後にあるアメリカの「善意」の財団へと矛先を進め、さらに、ユヌスのマイクロファイナンスを批判する。
貧しい農民の貧困を「企業化」し、多くの自殺をもたらしていると。(右上の写真は、この論文のウェブ(http://www.outlookindia.com/article/Capitalism-A-Ghost-Story/280234)で使用されている。「マイクロファイナンスは多くの農民の破滅の元になっている。」)
ユヌスの事業へのこうした批判に接するのは初めてで、新鮮だ。
<動向>
*2014年には、カースト制と闘ったアンベドカルの著作への序を書き、最近では、20年ぶりに小説を出すという情報にどこかで出くわした。
*2014年には、ロシアにスノーデンに会いに行き、その話を短い本、「Things that can& cannot be said」(2016年 Penguin Book)にまとめている。
この本で目を引くのは2点。米国の企業の金をバックにした、「市場に親和的な」「NGO」による「人権」攻勢への反発。この傾向は「資本主義 ある幽霊の話」でも出ていたが、人権の主張では不十分で、「ゴールは正義でなければならない」 と主張を強めている。
そして、第2点は、ガンジーの「非暴力主義」に対する指摘。ガンジーは「スーパースター」だったのであり、そのガンジーが唱える非暴力主義は、聴衆がいたからこそ、成立した「政治劇場」だったと指摘して、インドの森林地帯で戦っている住民に対して「説教」 できるイデオロギーではない、と主張している。
   
名前肩書き生年
パトリシア・プチボンフランスソプラノ歌手1970年

CDの写真

<選んだ理由>
二人目を誰にするか、随分迷った。
最初をロイにするのは文句なしだった。しかし、プチボンは歌手で、文章を読んだわけではないので、主義主張はわからない。
だから、ここで紹介すべきか迷うが、新しいタイプの人で、その活躍を追っかけたくなる人なので、紹介することにした。

何が新しいかというと、クラシック音楽にありがちな堅苦しさを全く感じさせないこの人は、もっぱら、ユーチューブでその演奏を聴いている。
CDも3,4枚は持っているが、ユーチューブで聴いたほうがずっと多い。
今、男のボストリッジと共に、気になる、聴いてみたい、たった二人の現役の歌手である。
10代の頃から聴いてきたのは、昨年亡くなった、ディートリヒ・フィッシャーディスカウであった。彼は、自分でもレコードをこれでもかと思えるほど多く録音したが、レコード収集もすごかったらしい。
要するに、プチボンより45歳年上の、ディスカウはレコードやCDの時代の人だったが、プチボンは、もはや媒体がなくなってしまった、今日の時代の人だと思う。

<特徴>
クラシック歌手といっても、華やかなオペラでも、正統的な歌曲の歌い手ではなく、目立たない、バロック時代の曲を演奏してきた人である。
日本で言えば、「**音大教授」か「**音大講師」といった肩書きをもつ、「お固い方」である。
それが、とんでもなくお茶目で、型にはまっていない奔放な人なのである(特に若い時の映像)

そして第二の特徴が、歌う時の生き生きとした表情、身振りである。
年をとるにつれ、活躍の場をオペラに広げてきているようだが、本当にオペラ向きの人だと思う。
歌+演技で、オペラは大変だろうな・・・なんてことを全然感じさせない。彼女にとって、歌うこととオペラに出ることは、全く同じことに過ぎないのだろう。

<演奏>
ユーチューブに映像がどんどんアップされ続けているので、追っていけば良い。
気に入っているものをいくつか紹介しよう。

1 最初に見つけて「ぶったまげた」映像。オッフェンバッハの曲(?)→youtube
2 日本での最近の演奏(2008年)「愛している」(アブルケル)→youtube
3 若い時はこんな恰好で歌っていた。シャブリエの曲→youtube
4 お気に入り演奏。ポピュラーを歌うプチボン。Fredy Merkuryの「guide me home」→youtube
5 珍しい英語を話しているプチボン。CDの英語版プロモ・クリップ。→youtube
  指揮者は語る。「彼女は音楽に没入するので、「crazy」なことをせざるを得ないのである。」
6 これは貴重な映像。初めてベルカント唱法で歌うイタリアオペラ。プッチーニの曲→youtube
7  最後は最新の映像。パーセル「ダイドーの嘆き」→youtube

<いちおし>
ベルグのオペラ「ルル」のルルが、プチボンの代表的な当たり役になるようだ。
バルセロナとウィーン、二つの劇場でのDVDが出ている。

*うれしい事に、オペラに出ている姿がDVDで見れるようになっている。(2018年)
 ヘンデル  アルチーナ (ERATO)
 モーツアルト ルチオ シッラ (BelAir)
 プーランク  カルメライト修道女との対話 (ERATO)
     
名前肩書き生年
ナオミ・クラインカナダジャーナリスト・作家1970年

CDの写真

<選んだ理由>
3人目は、ある日すんなりと思いついた。この人以外にはない、と。
ウィキペディアが「世界で最も著名な女性知識人、活動家の一人」と紹介していて、へえーそうなんかとは思うが、 異存はない。
1970代からの世界資本主義、新自由主義学派の実態を克明に、見事に分析した「ショック・ドクトリン」の著者である。

<特徴>
反グローバライゼーションの論客として知った。
2005年に第二作、「貧困と不正を生む資本主義を潰せ」(はまの出版)を読んだが、なんといっても「ショック・ドクトリン」の衝撃が大きかった。
現代の資本主義を「災害」「ショック」という切り口で分析するこの本は2007年に出されたが、私は2008年10月に英語版で読み終わった。
(韓国語訳は2008年には出ているのに、日本語訳が岩波から出たのは2011年。)

フリードマンの新自由主義学派が世界各地域で何をしてきたかを詳細に論じたこの本は、紹介のしようもなく、ともかく、自分で読んで見ることをおすすめする。。
ただ、3.11の大震災に和訳が間にあってよかったし、
「ディザースター資本主義」はすっかり市民権を得たようだ。(参考:「政府は必ず嘘をつく」堤未果 角川SSC新書)。

その特徴は、彼女の本を読むと、クライン個人ではなく、ともに動き、情報を集め、分析を行っている、多くの仲間・グループの存在を確かに感じることである。
「世界で最も著名な女性知識人」だとしても、個人ではなく、彼女が作っているネットワークが凄い。
新しいタイプの知識人の登場を感じる。

<ネット>
クラインの主張は、ウェブ上にたくさんある。

*→個人サイト
*→「ショック・ドクトリン」のサイト
膨大な資料へのリンク集(Resources)をちゃんと作っているのは、やはり新しい仕事のスタイルを感じさせてくれる。
*→フェイスブックのページ
「いいね」が20万を越している!

*嬉しいことに、多くの映像が和訳字幕付きで見れる。 →デモクラシー・ナウ

<最新動向>
気候変動の本を準備しているらしい。
「これがすべてを変える」(岩波書店)として出ている。さらに、トランプ批判の本をいち早く出している。「NOでは足りない」(岩波書店)
<いちおし>
「ショック・ドクトリン」(岩波書店)
名前肩書き生年
ジョーン・バエズアメリカ歌手・活動家1941年1月9日

CDの写真 二人のアメリカの「良心」・・・ハリーベラフォンテと   2009年オバマ就任セレモニーで(バエズのウェブサイトから)

<選んだ理由>
ここでは年下女性を紹介するつもりだったのに、年上の「過去の人」バエズを取り上げることになってしまった。
今でも現役であることを知ったのと、彼女が、私がずっと思い込んでいたのとは異なり、メキシコ系で子供時代に「nigger」と呼ばれた経験を有する人であることを知ったからである。
そして、彼女の母親が亡くなったばかりなので、もう10年、20年は活躍しそうだからである。

<特徴>
なんといっても、60年代の「フォークソングの女王」、そして公民権運動、反戦運動の活動家である。
「私は第一に、人間であり、第二に、平和主義者であり、あえて言うとすれば、第三に歌手である。」
知らなかったのは、その活動をずっと続けて来ていることだ。オキュパイ・ウォールストリート運動で歌っている70過ぎの映像に出会って、びっくりしてしまった。
→youtube

そして、彼女の音楽と活動の原点がその出自から来ていると知った。
バエズは3人娘の真ん中だが、「自分だけが茶色」(父がメキシコ人、母はスコットランド)で、孤独で「違う」という意識を感じていた、
「それで歌う声を身につけるようになった」と自伝で書いている。(p29 「A Memoir」 邦題は「We shall overcome」)
具体的には、あの特徴的な、強いビブラートを練習して身につけたという。

そして、「社会正義への情熱」が芽生えたのは、父がユネスコで働いていた1940年代(?)のバグダッドでアジアを体験したかららしい。
その強い非暴力主義はクエーカー教徒だった両親から受け継いだ。

<ネット>
*彼女を紹介する優れたフィルムがある。
→portraitバエズ一家のプライベートな映像も使用している
*1965年のBBC番組
→In Concert
*自宅で歌う、最近の映像
→We shall overcome

<最新動向>
→本人のウェブサイトに最新ニュースがある。
残念なことに、2018年に引退コンサート・ツアーを行っている最中。

<いちおし>
彼女自身最高のアルバムだと言っている、「Diamond and Rust」のタイトル曲がよい。
これは聴いたらすぐわかるが、一時付き合っていたボブ・ディランの事を歌っている。きわめてパーソナルな、「私小説」な歌なのだが、痛快な歌だ。
バエズが惚れ込んで、一時夢のカップルになったのに、サッサと自分を捨てたディランをネタにして最高の曲にしてしまうのだから。
→Diamond and Rust
この歌を彼女は良く歌ってきたので、youtubeには多くの演奏がある。面白いのは、最後の歌詞をアドリブでいろいろと変えていること。
 
名前肩書き生年
ブレディみかこ日本保育士・ライター1965年

CDの写真 

<選んだ理由>
ここで紹介する最初の日本人は誰にしようかと考えていた。
やっといい人を見つけて、何やらうれしい。 出版界に登場してきたこれまでの女性とはちょっと違うタイプの人だから。
まず、日本には住んでいない。イギリスに住み続けている。グローバル化の時代にふさわしい。
さらに、学者先生や芸術家というのがこれまでのパターンで面白くないが、この人は保育士。
言ってしまえば、これまでのインテリ女性とは違う、物書きが登場してきた感じがしている。
ますます、目が離せなくなっている人だ。

<特徴>
上にあげた点に加えて、特徴をあげれば、
*3年ほど前から注目し出したが、当時は、英国のアナキズムや「左翼セレブ」を日本に伝えるマイナーな人だった(と思っていた)。
それが、英国のEU離脱直前の状況を伝える「ヨーロッパ・コーリング」(岩波書店)で注目を浴びて、昨年の「子どもたちの階級闘争」(みすず書房)では新潮ドキュメント賞を取って、一気にメジャーになってしまった。
*そして、英国の状況を伝える人からさらに進んで、(日本各地での見学・交流をへて)日本の政治状況への発言を行うようになっている。

<期待>
1.日本人は「英国もの」の本が好きで、数限りない紹介本はある。しかし、ブレディさんが書くのは、貴族や紳士淑女ではなく、「地べた」で生活しているイギリス人の話しだ。
   そうした地べたからの報告をもっと期待したい。
2.ブレディさんは、最近は、労働党のコービン党首を初めとする欧州の「新左派」の紹介を強めている。
 日本のどうしようもない「ガラパゴス化」に対する危機感がその背景にあるのを強く感じる。
 「日本ももっと優れた翻訳本がタイムリーに出るようになると、いろんなことが変わってくるかもしれません。」(「ブレグジット狂騒曲」弦書房 2018年 p44)

<いちおし>
*一番手軽に読めるのは・・・「ブレグジット狂騒曲」弦書房 2018年 
 入手しやすく、ブレディさんの特徴をつかみやすいのが、「労働者階級の反乱」(光文社新書)
*ぜひとも、おすすめなのが、「そろそろ左派は経済を語ろう」(亜紀書房)
ここでは、松尾匡や北田暁大の学者二人と一緒に、「新左派」を主張しているが、彼女の話しにもっとも説得力を感じる。  

ホ−ム>>目が離せない女性たち

更新日2018/10/25